観光で地域を活かすブランド戦略

ペルソナ設定から始める観光コンテンツ開発:具体的な手法と事例

Tags: ペルソナ設定, 観光コンテンツ開発, ターゲットマーケティング, 地域ブランド戦略, 観光事例

はじめに:なぜ今、ペルソナ設定が必要なのか

地域観光の振興において、画一的なプロモーションやコンテンツ提供では多様化する旅行者のニーズに応えることが難しくなってきています。限られた資源の中で最大の効果を生み出し、地域ならではの魅力を特定の層に深く響かせるためには、誰に向けて情報を発信し、どのような体験を提供すべきかを明確にする「ターゲット顧客設定」が不可欠です。

特に近年注目されているのが、仮想の顧客像である「ペルソナ」を設定し、そのペルソナの視点から観光コンテンツを開発する手法です。この手法は、単なる統計的なデモグラフィック情報に留まらず、その人物のライフスタイル、興味関心、旅行の動機、情報収集チャネル、抱える課題などを具体的に描き出すことで、よりパーソナルで響きの強い観光体験を設計することを可能にします。

本記事では、地域観光におけるペルソナ設定の重要性を再確認し、具体的な設定手順、設定したペルソナに基づいて魅力的な観光コンテンツを開発する手法、そして実際の成功事例について解説します。

地域観光におけるペルソナ設定の重要性

観光市場は多様化し、旅行者のニーズは細分化しています。マス向けのプロモーションでは、特定の層に深く刺さるメッセージを届けることが難しく、結果として多大なコストを費やしても十分な集客や満足度が得られないケースが見られます。ペルソナ設定を行うことには、以下のような重要なメリットがあります。

ペルソナ設定の具体的なステップ

ペルソナ設定は、想像だけで行うのではなく、データに基づいた分析と、現場の知見を組み合わせて行うことが重要です。以下のステップで進めることが推奨されます。

  1. 目的の明確化: なぜペルソナを設定するのか、どのような観光戦略のために活用するのか(例: 新規コンテンツ開発、特定市場の開拓、ウェブサイト改善など)を明確にします。
  2. データ収集と分析:
    • 定量データ: 観光客の属性データ(年齢、居住地、旅行形態)、宿泊データ、交通量データ、ウェブサイトアクセス解析データ、SNS分析データ、アンケート結果、既存の観光統計などを収集・分析します。
    • 定性データ: 観光客へのヒアリング、観光案内所での聞き取り、事業者や住民へのインタビュー、観光客のSNS投稿や口コミ分析などを通じて、旅行の動機、満足点・不満点、興味関心、行動パターン、情報収集方法といった深い洞察を得ます。
  3. セグメンテーション: 収集したデータを基に、地域の観光客を特徴やニーズに基づいていくつかのグループに分類します。
  4. ペルソナの具体化: セグメントの中から、特に注力したいターゲット層を代表する人物像を複数(通常2~3名程度)設定します。以下の要素を具体的に描写します。
    • 基本情報(氏名、年齢、性別、居住地、職業、家族構成)
    • ライフスタイル(趣味、価値観、休日の過ごし方)
    • 旅行に関する情報(旅行の頻度・期間、旅行の目的、重視する点、予算、情報収集方法、過去の旅行経験)
    • 地域に対するイメージや期待
    • 地域観光で抱えるであろう課題やニーズ
    • 架空の写真やイラストを加えることで、より人物像を具体的にイメージしやすくなります。
  5. ペルソナシートの作成: 設定したペルソナ情報を一枚のシートにまとめ、関係者間で共有しやすい形にします。
  6. 定期的な見直し: 観光トレンドや市場の変化は常に起こるため、設定したペルソナも定期的に見直し、必要に応じて更新することが重要です。

設定したペルソナに響く観光コンテンツの開発

ペルソナが設定できたら、そのペルソナが「思わず行きたい」「体験したい」と感じるような観光コンテンツを具体的に企画・開発します。ペルソナの視点に立ち、「この人は何に興味を持ち、どのような体験を求めているのか?」「どのような課題を解決してあげられるか?」を深く考えます。

事例:ペルソナ設定が奏功した観光コンテンツ開発

事例1:自然・体験重視の若者層向け観光地再生

ある地方の山間部にある地域では、高齢化が進み、従来の温泉・保養地としての魅力が薄れていました。データ分析とヒアリングの結果、「日帰りや1泊2日で手軽に非日常体験を求める、自然やアクティビティに関心の高い20代後半〜30代前半の若者」を新たなペルソナとして設定しました。

このペルソナは、SNSで情報を収集し、友人との思い出作りや「映え」る体験を求めていることが分かりました。そこで、地域資源である清流を活用し、以下のようなコンテンツを開発しました。

これらのコンテンツは、ペルソナが情報収集に利用するInstagramを中心に発信され、「#地域名体験」といったハッシュタグキャンペーンも展開しました。その結果、若者層の来訪者が増加し、地域の新たな活気創出につながりました。

事例2:歴史・文化深度体験を求めるシニア層向けプログラム

ある歴史的街並みが残る地域では、単なる街並み散策に留まらない、より深い歴史や文化への理解を求める層が存在することに気づきました。データとヒアリングから、「歴史が好きで、ガイドブックには載らないような裏話や専門家の解説を聞きたい、時間に余裕のある50代後半〜70代前半のアクティブシニア」をペルソナに設定しました。

このペルソナは、信頼できる情報源や専門家の話を重視し、少人数で落ち着いた体験を好む傾向があることが分かりました。そこで、以下のようなコンテンツを開発しました。

これらのプログラムは、地域の広報誌やシニア向けの旅行雑誌、旅行代理店の専門ツアーとしてプロモーションされました。参加者からは、「期待していた以上の深い知識が得られた」「他の観光客とは違う特別な体験ができた」といった高い満足度が得られ、リピーターの獲得にも貢献しました。

まとめ:ペルソナと共に進化する地域観光

地域観光の活性化と地域ブランドの構築において、ペルソナ設定は羅針盤のような役割を果たします。誰に、どのような価値を提供すべきかを明確にすることで、地域資源を最大限に活かし、ターゲットに深く響く観光コンテンツを効果的に開発することが可能になります。

ペルソナ設定は一度行えば終わりではなく、市場やトレンドの変化に合わせて常に更新し、ブラッシュアップしていく継続的なプロセスです。地域内の多様な関係者がペルソナを共有し、それぞれの役割の中でペルソナに喜ばれるおもてなしや情報提供に取り組むことで、地域全体として一貫性のある魅力的な観光地ブランドを築くことができます。

本記事で解説したステップや事例を参考に、ぜひ皆様の地域でもペルソナ設定に基づいた観光コンテンツ開発に取り組んでいただき、地域ブランドの強化と持続可能な観光振興を実現されることを願っております。